<大波小波> 今なぜ『戦争と平和』か:中日新聞Web
書名は誰でも知っているが、読み通した人はあまりいないトルストイ『戦争と平和』。最近光文社古典新訳文庫の望月哲男訳第6巻が出て完結した。各巻末の訳者による詳しいガイドが明解だ。
同作はロシアの一八〇五年と一二年、ふたつの対ナポレオン戦争を史実に基づき活写した。正義や大義の称賛ではなく戦争の苛酷さ、大地や空や森の自然描写、翻弄(ほんろう)される人間たちに光を当てた大作。登場人物は実在や架空、合わせて五百五十人以上だ。一二年にロシアは国土の奥深く侵攻され、モスクワも占領された。これを契機に近代化の芽が生まれた歴史的意味は深いが、なぜ彼は戦いから五十年後、農奴解放令など激動の六〇年代に書いたのか。執筆当時三十六歳だった彼は、この二つの戦(いくさ)を知らない。だが彼には戦いを経験せず当事者ではない世代が過去を学び、歴史の動力や人間の生きる意味を考察し、返す刀で揺れる同時代を照射する強いモチーフがあった。
同様日本人にも忘れてはならない七十六年前がある。あの戦争は何だったのか。文学は時間や空間を無限に遡(さかのぼ)れるはず。当事者ではない小生らの世代が、戦争を美化せず真摯(しんし)に平和を考える...
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